別冊ガレリア|映像の世界|WASEDABOOK


presentend by WASEDABOOK
Copyright 2009 WASEDABOOK. All Rights Reserved.








潜行


撮影場所はどこですか。海底何メートルぐらいでしょう。

2006年の冬にミクロネシア諸島のグアム島で撮ったものです。
クレバスというダイビングポイントで海底が切り立った谷のようになっており、一番下での水深は50Mというポイントです。
この写真を撮るときは35Mほどの中層を泳いでいるところでした。
水深が深くなる程に青色は濃い藍色へと変化していきます。
その水の色の変化のグラデーションと、独特の浮遊感、
これぞダイビングの醍醐味!というワクワク感を写真に収めらたれのではと思っています。


DSCF0961.JPGグアム島沖海底35メートル



どこの海が一番好きですか。

これまで、潜った海は、いずれもフィリピンですが、セブ、マクタン、ヒルトゥガン、ボホール、カビラオ、バリカサグ。
また、ミクロネシアでは、グアム、サイパン、さらに、ハワイのオアフ島、オーストラリアのグレートバリアリーフにも潜りました。
国内では伊豆、沖縄本島、慶良間諸島を写しています
この中で、一番好きな海は、何といっても慶良間諸島の海ですね。
海の透明度、サンゴ礁の見事さは海外の島々に決して劣っておりません。



空中と海底とで写真を撮る場合、技術以外に、何か違いを感じますか。

一番の違いは水の中は空気中に比べてとても濁っているということです。
陸上では数十キロ先のものまで見通すことができますが、
水中ではどんなに澄んだ海でもせいぜい40~50M先までしか見通すことができません。
色の消失も水深5mあたりからだんだん青以外の色が失われてきます。
さらに自分自身も水の流れに常にさらされているということが主な違いであるといえます。


海で一番撮りたいものは何でしょう。

私の写真を見た人が海の中の世界に興味を持ってもらい、
さらに環境についても考えてもらえるような写真を撮り続けることができたらと思っています。


あなたにとって「海」とは。そして写真とは。

私にとって海とは生活の一部であり、なくてはならないものです。
幼少の頃から磯釣りが好きな父に連れられ海に行き、
家では熱帯魚を飼育されていました。
学生の頃にサーフィンを始め、それからダイビングをしたことは、
海とともに育った私としてはごくごく自然な流れだったのかもしれません。
まず私の中に海という大きなライフスタイルがあり、
その感動をほかの人と共有したいと思ったとき、表現方法として写真があったのだと思います。
今では写真のウェートの方が大きくなっていますがね…。




棲息


サカナの顔に愛嬌さともの哀しさとが同居しています。

この魚は人間が捨てた空缶の中に暮らしています。
棲み処を失った生物が人間の環境破壊の産物で暮らしている事に対するものさびしさを表現できているのではと思っています。
もちろん眼を見る事は大切です。
人も含め生物を撮るときには実にピントを合わせると写真に力が入ってきます。
魚は特に奇麗な目をしているのが多いです。
魚屋さんに並んでいる魚の目は輝きを失っていますが、
水中で見る魚の眼はまるで表情があるかのように、とてもいきいきしています。


DSCF1508.JPG和名はミジンベニハゼ、学名をLubricogobius exiguus という。



サカナは被写体として難しいですか。

難しいですね。後で詳しく触れますが、水の中という環境は、色の消失、浮遊物などの問題で、如何に被写体に寄れるかが一番大事になってきますので、陸上のように望遠レンズを遣って遠くの被写体を大きく写すとこができません。そして相手は自由に水中を泳ぎまわっていてなかなか寄らせてもらえません。空気ボンベで限られた時間の中でシャッターチャンスをものにしなくてはなりません。



好きなサカナを教えてください。

タツノオトシゴの仲間がお気に入りですね。
彼らは生息する環境に合わせて様々な形に擬態をしていて、とても美しい形をしています。
特にオーストラリア南岸に生息する「ウィーディーシードラゴン」という個体はとてもお気に入りで、まだ水中で見たことはありませんが、是非とも撮りに行きたいと思っている被写体です。




これまで撮影したサカナのなかで、最も印象的なサカナの写真を教えてください。

沖縄、慶良間諸島で撮ったカクレクマノミの写真です。
このクマノミは宿主となるイソギンチャクにくっついて生きています。
イソギンチャクの触手には刺胞(針のようなもの)があるのですがクマノミはイソギンチャクの刺胞に刺されません。
イソギンチャクに外敵から守ってもらっているのです。
代わりにクマノミはイソギンチャクに餌を捕食させたりしているようです。
このような関係を共生といって、海の中では共生関係にいる生き物をたくさん見ることができます。



DPP_0715.JPG慶良間諸島のクマノミ




破壊


ダイバーたちは何をしようとしているのですか。

彼らはファンダイバー(レクリエーショナルダイバー)です。
彼らが持っているのは、ダイビングをするための計器類と、
会話のできない水中でコミュニケーションをするための器材です。



撮影場所はどこですか。どこの海ですか。

フィリピン・ビサヤ地方のマクタン島(セブ島)です。
「マリドンゴン」というポイントで水深も浅く、リゾートからも近いのでたくさんのダイバーでにぎわっています。



狙ったとおりに写真が撮れましたか。

このときは、ドリフトダイビングと言って、ちょうど正面に向かっての流れに乗ってダイビングをしていました。
マクロセットのカメラを持って、小さな生物を撮っていると、
突如目の前にこの光景が現れ、あわててワイドセットに機材を取り替え、
夢中でシャッターを押したなかの一枚でした。
そのまま流れに乗って通り過ぎてしまったので、構図的には満足いくものではありませんでした。
しかし、逆に、ダイバーが切れてしまっていることで、かえって臨場感が出たのではと思っています。




DSCF0396.JPGマクタン島でのファンダイバー(フィリピン)




この写真にはメッセージを感じることができます。

錨を下ろした人達に水面下で何が起こっているのか教えてあげたかったんです。
錨を下ろしていたのは、地元のダイビングサービスの船でした。
彼らはダイビングをしにくる観光客に、何を見てもらっているのかを考えるべきです。
その海の素晴らしさと同時に環境破壊の現場も見せつけているのですから。




共生


この写真ではサンゴが白色していますね。

この写真は2006年にサイパンでとったものです。
海水温が高くなるとサンゴの白化が見られるようになります。
水深5m程に生息していたこのサンゴは真っ白になっています。
このまま高い海水温が続くとサンゴは弱って死滅してしまうそうです。
近年の地球温暖化の影響なのか定かではありませんが、もし人間の仕業であるならば防がねばなりません。



DSCF0730.JPG白化したサンゴ(サイパン)




意識されている、目標とされている写真家はいらっしゃいますか。

水中写真家の中村征夫さんです。
発表されている作品のクオリティの高さもさることながら、東京湾でのライフワークや、数々の環境活動
など、尊敬に値する写真家さんです。



これまで撮影した中で、最も印象深い写真を教えてください。

この写真はオーストラリアのグレートバリアリーフで撮ったものです。
ここはサンゴ礁内のラグーン内で小さなサンゴがいきいきと育っていました。
海面すれすれまで太陽に向かって育つその様には、自然が持つ大きなエネルギーを感じることができます。


IMG_6641.JPGグレートバリアリーフのサンゴ礁




これから、どのような「写真」を撮り続けていきたいですか。

私は、2つの作風の写真を水中で撮っています。
1つは、見る人に環境について考えてもらえるような写真。
そしてもう一つは、見る人に海の中で自分が見た感動を共有してもらえるような写真です。
この2つのスタンスで見る人に美しい海の自然を大事にしなくてはと考えていただけるきっかけになればと思い、写真を撮り続けていきたいです。



中村征夫 写真家 
20歳のときに独学で潜水と水中写真を始め、後に専門誌のカメラマンを経てフリーランスとなる。
国内外の海や自然、人々、そして環境を含めて精力的に取材。ライフワークの東京湾をはじめ、空港建設で揺れる石垣島・白保、九死に一生を得た北海道南西沖地震・奥尻島でのフォトルポルタージュ、諫早湾のテレビリポートなど、社会性のあるテーマにも果敢に取り組み、報道写真家の顔も持つ。同時に、海の魅力と環境問題を伝え続けている。
中村征夫ホームページより抜粋


DPP_0002.JPG

DPP_0678.JPG

DPP_0735.JPG

DPP_0754.JPG

差し替えIMG_6766.JPG
DPP_1450.JPGDPP_1x0873.JPGDPP_1x0910.JPGDPP_1x0924.JPGIMG_0793.JPG